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イチゴビジネスの先駆者が伝授する 成長フェーズ別戦略の立て方【岩佐と紐解く戦略的農業#01】

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【プロフィール】
■岩佐大輝さん

株式会社GRA代表取締役CEO
1977年、宮城県山元町生まれ。大学在学中に起業し、日本および海外で複数の法人のトップを務める。2011年の東日本大震災後に、大きな被害を受けた故郷山元町の復興を目的にGRAを設立。著書は『99%の絶望の中に「1%のチャンス」は実る』(ダイヤモンド社)ほか。

■横山拓哉

株式会社マイナビ 地域活性CSV事業部 事業部長
北海道出身。国内外大手300社以上への採用支援、地域創生事業部門などで企画・サービスの立ち上げを経験。2023年4月より同事業部長就任。「農家をもっと豊かに」をテーマに、全国の農家の声に耳を傾け、奔走中。

農業ビジネスに変革を起こす

横山:岩佐さんは2011年に創業されていますが、当時、どんな思いでしたか?

岩佐:東日本大震災で宮城県山元町は津波でほぼ壊滅したんです。山元町はイチゴの産地で、私の祖父もイチゴ農家。ですが、津波で129軒あったイチゴ農家のうち125軒が流されました 。そこで「地元を復興させたい」と、20代に起業したIT企業から離れて、地元に戻りGRAをスタートしました。当時は混沌(こんとん) としていて、多くの人が仮設住宅に住んでいた時期です。私も公民館に寝泊まりしながら農場に通っていました。

横山:今でこそ「ミガキイチゴ」や、カフェ「ICHIBIKO(いちびこ)」 や観光農園の運営など多様な事業をされていますが、立ち上げ時はどこから着手したのですか。

岩佐:本当に何もなく、共同創業者3人で井戸堀りからですね。地元の農家さんにも手伝ってもらって、パイプハウスも建てて。

横山:栽培技術も何もないわけですよね。

岩佐:新しいビジネスを始めるときは自分で経験したほうがいいという肌感覚があったので、まず自分たちでやったんですよ。一緒に起業した、農業歴40年くらいの大ベテランの農家さんに教えてもらってスタートしました。この農場は環境制御システムを入れています。たまたま私がITの専門家だったので、ITのノウハウをイチゴ栽培に応用したんです。ただ、そこには 大ベテランだった彼の40年の技と経験を全て取り入れました。地域の気候に合わせたたくみの技や経験の形式知化は、単なる自動化ではないため簡単ではありませんでしたが。実は先月、その彼が亡くなってしまいました。まだショックが癒えません。地元のレジェンドの知恵を大切にする姿勢は、今でも変わりません。

「ミガキイチゴ」としてブランド化する

横山:「ミガキイチゴ」のブランド化のストーリーを教えてもらっていいですか。

岩佐:まずは、おいしいイチゴを作らないといけないので栽培に集中しました。おいしいイチゴを毎年作るために、マニュアル化して、コンピューターで再現できるようにする。さらにそれを磨き上げるために、研究員を採用し、他の研究機関と組んで研究レベルを向上させ……。こうした投資が次のステップでした。同時にブランド化を進めました。ブランド化では「かっこいいロゴを作れば売れる」という考え方がありますが、これはまったく違う。売るチャネル(手段・経路)がないと、どんなによくても売れない。ですから、1年くらいは“どぶ板営業”のように週に数回、イチゴを市場に持っていき仲卸の方に食べていただき評価してもらっていました。

横山:作ることも売ることもゼロから自分でやり、それを1年間ずっと継続したと。

岩佐:そうですね。私たちの経営はスマート農業みたいな側面もありますけど、結構、泥くさいこともやってきて。私自身、今もどぶ板営業をしてますね。今は営業部門の人数も増えましたが、重要な局面には私も同行しますし、私自身が誰よりもイチゴの作り方に習熟するように、常に作り方も学び、現場も回っています。

横山:人によっては「生産と営業の両方をやるのは、すごくタフで大変なこと」とも聞きます。岩佐さんはどうですか。

岩佐:私自身が一人で全部動いているというよりも、会社なのでチームがいるわけですよ。例えば栽培部門だけでも100人以上います。私は現場を回ってもろもろのことを見ますが、個別のマネジメントは各リーダーがやっています。

横山:イチゴの加工品は、どんなきっかけでしたか?

岩佐:傷ついたイチゴを売る方法や、夏に売り上げを作る方法を考えているうちにですね。最初に作ったのは「ミガキイチゴ・ムスー 」というお酒です。

横山:よく6次産業化したはいいけれど「全然売れない」とも耳にしますが、そうならなかった要因は何だと思いますか。

ミガキイチゴの商品が並ぶ

岩佐:基本的に加工品は、競争相手が農家じゃなくなるんですよ。例えば私たちみたいなお酒なら、モエ・エ・シャンドン とかがライバルになって、レベルがまるで違うわけですね。でも勝てる方法が二つだけあるとすると、一つは原料調達の優位性をフルに生かすこと。つまり私たちはイチゴをふんだんに使える環境がある。大手の食品加工会社は原料調達になかなか苦労していますよね。そしてもう一つはここにイチゴ狩りに来ていただく。私たちはこの両方をやっています。

売り上げ向上のための費用の考え方

横山:売り 上げの最大化のために大事にすべきポイントは何でしょう。

岩佐:当然ですが、一番重要なのは面積当たりの収穫量を上げることです。立派な施設を作っても、たいして量が取れなければ成り立たないんですよ。あとは品質ですよね。毎回、糖度・酸度を測定して、変化を追い、品質を担保する。「収穫量×品質」が売り上げの大本になります。そしてこれを価格に転嫁していく。“普通のイチゴ”として一般的なやり方で売ったのでは単価は変わりません。そこで品質の象徴として、ミガキイチゴというブランドを育てていきました。

横山:ブランド化には広告費や販売管理費もかかりますよね。

岩佐:例えば市場に出す場合は販売管理費を考えなくてもいいですよね。製造原価だけ。これは素晴らしいシステムだと思います。一方、自分たちでやると販売管理費が発生します。そこで私たちは株式での資金集めをして、研究開発や販売管理費に充てました。初期段階では10億円以上のお金を借り入れていますが、それに加えて創業4年目くらいに株式で約5億円を調達しました 。

横山:ということは3年で一定の品質・売り上げまで持っていったということですよね。

岩佐:そうですね。投資に応じて利益も増えるような仕組みになっていましたので、投資が集まりやすかったです。それまでは、農業に出資してくれるような投資会社は1社もなかった。

横山:GRAが最初の風穴を開けた感じがありますよね。

岩佐:最初は本当につらかったですよ。個人のお金も全部投じて、生活のために借金をして。その上で多くの方に協力してもらっていましたから、すごい大変でした。

横山:何から何まで背負っていたんですね。

岩佐:今でも背負うものはあります。けれど今は経営陣もたくさんいますし、私だけで悩む必要は全くない。そういう意味では楽になりました。ただ、規模がとにかく大きくなりましたから、解決すべき課題は大きくなってますよね。

成長フェーズ別経営戦略ワンポイント

創業期:自らの方針を決める

横山:ここから少し、成長フェーズごとのポイントを聞きたいと思います。まず創業時や創業間もない生産者に「ここを意識すればスケールアップしやすい」などのアドバイスはありますか。

岩佐:まずは、自らの方針を決めることです。例えば生産に特化して市場に出すなら、多収で省力化できる品種を選ぶことになります。または自分たちで付加価値あるものを売りたいなら、多収でなくとも、特徴あるものを作って差別化することが重要です。また「どうありかたいか」というライフスタイルも大切ですよね。雇用インパクトを作りたい人は規模の拡大を追究しないといけないでしょうし。そうでなく家族や友達と趣味も楽しみながら農業をやるというのも、大事な作戦です。

成長期①:量と質を安定化

横山:では、そこから順調に成長してきた場合、特にこれから大きくしていきたいという農業者が意識したいポイントは何でしょう。

岩佐:どんな品種だろうと、生産量と品質を安定させる技術を早い段階で固めることが必要ですね。「去年は良かったけれど、今年は悪い」だと、販売がうまくいきません。一定以上のものを安定的に作ることはブランド戦略上、一番重要なところですね。

横山:園芸作物のほうが安定化しやすいという声もありますが、そこはどう思いますか。

岩佐:実はそうでもないです。園芸で作る作物は非常に感度が高く、ちょっとしたミスで全滅することもあります。

成長期②:販路を開拓する

横山:では生産が安定化してきたら、次はどうでしょうか。

岩佐:よい品質のものを作れるようになれば、次は“外”を見ることになります。つまり、よい販路を作り、製造原価をコントロールするのが次の作業ですね。製造原価を回収できるような販路を探して営業をかける。同時に製造原価を下げる努力もします。このシーソーですね。

もしも壁に当たったら

横山:経営では、混沌とした状況になって不安になることもありますよね。そんなときに岩佐さんだったら、どういうふうに整理をして、次の手を考えていきますか。

岩佐:まずはそのときに起きている状況をきちんと定量化・数値化することが大事ですね。「なんでこんなにもうからないんだろう……」と闇雲に考えていると不安で夜も眠れなくなるんで。「キロあたりの製造費はいくらか。灯油代は?輸送費は?人件費は?」と悩みや不安をバラバラにして、一つずつ対応していくと混乱しませんよね。

横山:例えば売り上げに対する人件費や燃料費などの基準は、どのように判断していけばいいですか。

岩佐:自治体などから標準的な農業経営指標みたいなものが作物別に出ていたりします。ただ、その通りに行かないわけですよ。最終的なコストは、売上高・単価から逆算して、コストとして割ける分を自分たちで決めていくものです。

横山:岩佐さんの創業当初と今を比べると、初期投資額もランニングコストも上がっていると思いますが、そうした基本的な考え方は変わらないですもんね。

岩佐:全く変わらないですね。市況価格から見た売り上げと、投資額とのバランスを見越した上で計画を立てることが非常に重要です。

日本の農業の将来像


横山:最後に未来について聞きます。今後目指している世界観などを教えてもらってもいいですか?

岩佐:まず日本の農業自体が極めて厳しい状況にありますね。肥料の自給率はほぼなく、当然、食料が安定的に食べられる時代はそれほど長く続かないわけですよ。そういったところに挑戦し、サスティナビリティへの貢献に深くコミットしていきたいですね。具体的ではありませんが、イチゴをしっかりやりながら、他の作物にも挑戦したり、この宮城県でやってきたことをあらゆる地域や国に展開することも考えています。今は活動の拠点を広げているところです。

横山:ありがとうございます。お知らせになりますが、今後、岩佐さんと一緒に全国を回りながら、持続可能な経営をしている農業生産者の話を聞き、農業の基本の「き」などを一つずつひもといていければと思っています。

岩佐:農業は「あの人もうかっている」とふわっと語られることが多いんですけども、やっぱり勝っている人はきちんと構造的に競争優位を作っているんですよ。負けている人はそれなりの理由があって負けているわけですよね。それを明らかにするために、うまく軌道に乗っているプレイヤーがどういう経営をしているかという本質に迫っていきたいと思います。

横山:たくさんひもといていきましょう。

(編集協力:三坂輝プロダクション)


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