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新規就農から5年でイチゴの輸出を実現! あまおう生産者が見据える輸出の未来

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苦境から一転。「あまおう」特別栽培認証を受ける

取材に応じてくれたのは、福岡県久留米市のイチゴの生産法人「うるう農園」の取締役をつとめる古賀百伽(こが・ももか)さん。夫の智樹(ともき)さんが代表取締役だが、古賀さんは輸出業務を担っており、新たに設立した輸出専門の別会社である株式会社Uluu Japan(うるうジャパン)では代表取締役を務めている。

古賀さん夫妻

古賀百伽さん(左)と夫の智樹さん(右)

古賀さん夫妻が新規就農したのは2017年。古賀さんにアトピーやアレルギーがあったため、自身と同じ悩みを持つ人のためにと、野菜の有機栽培を志したのが始まりだ。
「8種類の野菜の有機栽培で始めたのですが、栽培も販売もうまくいかず……。悩んでいたタイミングでイチゴの師匠が離農することになり、ハウス2棟を引き継ぎました。師匠は認証こそ取っていませんでしたが、福岡県の特別栽培基準をクリアするレベルの栽培方法を実践していたので、当社のイチゴは初年度の2018年から福岡県の特別栽培農産物に認証されました」(古賀さん)
福岡県のイチゴの特別栽培認証基準は、化学農薬・化学肥料の使用量が慣行栽培の5割以下であることなどで、認証されたイチゴ農家の割合は約2%(2024年7月時点)。古賀さんは「師匠の教えを守ることで、特別栽培を軌道に乗せることができました。私達の場合、就農目的が有機栽培での生産だったから、違和感なく受け入れることができたのかもしれません」と冷静に振り返った。

当初は部会に所属して系統出荷から始めたが、2019年にイチゴ狩りを始めた。特別栽培の「あまおう」狩りは人気を呼び、うるう農園は「じゃらん九州・沖縄エリアいちご狩り人気施設グランプリ」に4年連続して選ばれた。さらに産直ECを活用した直販、加工品の製造販売と、着々と事業を拡大していった。現在、うるう農園の社員は9人、パート・アルバイトは9人。栽培面積は1.1ヘクタールにまで拡大した。そして今は有機栽培にも取り組んでいる。

危機感から始めた「あまおう」の輸出

あまおう箱入り

うるう農園の「特選あまおう」

うるう農園は就農以来、順風満帆に事業を拡大してきたが、その背景にあったのは「危機感」だったと古賀さんは言う。2020年初頭からのコロナ禍がその危機感に拍車をかけ、新しい取り組みのきっかけになった。
「コロナをきっかけに通販に注力するようになり、今では半分が通販になりました。これは順調だったイチゴ狩りが、コロナにより営業を制限せざるを得なくなったためです。また売り上げの多くをふるさと納税に頼っていたのですが、制度改正があればこれが急減する危険性があります。そもそも日本の人口は減っていくのですから、それにともないイチゴの消費が減っていくのは明らかです。このままでよいのか、という危機感がありました」(古賀さん)
そしてコロナ禍が終わる兆しが見え始めた2022年春、未曾有の円安が始まった。これが輸出挑戦の決め手になった、と古賀さんは語った。
 

商談会・展示会・Webをフル活用して輸出への挑戦を開始

あまおうの販売の様子

熊本産「ゆうべに」とともに販売されている、うるう農園の「あまおう」

古賀さんは日々の栽培管理で忙しい中、早速輸出に向けて始動した。
「最初は、商工会と久留米市、福岡県に相談に行きました。そこでJETRO(日本貿易振興機構)を紹介していただき、専門家支援の申し込みをしました。これは今年で2年目で、専門家の方に伴走支援してもらっています」
JETROの専門家支援とは「農林水産・食品分野の輸出専門家(プロモーター)による個別支援サービス」のこと。その専門家が農業生産者の製品や会社の状況に合わせて戦略を策定し、マーケット・バイヤー情報の収集や海外見本市への随行、商談の立ち会い、最終的には契約締結までを手伝ってくれるもの。これを利用するのもよいだろう。
「とにかく手掛かりをつかもうと、専門家のアドバイスを参考に商談会や展示会、Web相談会など、あらゆるところに申し込みをしました。そもそも、あまおうにはネームバリューがあります。また、当社がある久留米市は福岡空港まで車で1時間。朝収穫したら昼の航空便に載せることができます。それを商談会でアピールしたところ日本の商社とつながることができ、2022年の12月から香港、台湾、シンガポールへの輸出を開始することになりました。その期の売り上げは1500万円。2023年には倍増して3000万円にまで伸ばすことができました」(古賀さん)
うるう農園のイチゴ輸出成功の要因は、希少なあまおうの特別栽培であること、さらに十分な生産量があることが大きい。また、「収穫当日のイチゴを航空便に載せることができる、というのがパワーワードだと気付いた」と古賀さんが言うとおり、立地の良さと、その有利な条件をしっかりアピールする交渉術もまた、成功に寄与したはずだ。

輸出先の残留農薬基準に合致した栽培

天敵農薬

うるう農園で使用している天敵農薬

現在うるう農園では、残留農薬基準の厳しい台湾にもイチゴを輸出しており、登録農薬の中から台湾の残留農薬基準に適合する農薬を選んで使用している。そのため夏場には毎日の見回りが欠かせない。栽培する株は7万もあり、この見回りにかかる人件費は、古賀さんによると「化学農薬を使用した場合の10倍」であるという。
「病害は初期におさえるのが大事。苗は多めに作って、病害が疑われる株があれば、周囲20株を廃棄するという対策をしています」(古賀さん)

さらに、イチゴ栽培の師匠から教わった害虫防除の方法をアップデートするとともに、取引している商社が構築したIPM防除体系を参考に、天敵農薬を使う生物的防除や紫外線照射を行う物理的防除なども行っている。
「育苗期にはナミハダニ対策として天敵のカブリダニを使っています。開花後もカブリダニを利用するほか、うどんこ病には紫外線UV-Bをあてます。その他の病害虫に使う農薬については、天敵に影響が少なく、現地の残留農薬基準値が日本と同等かそれ以上という農薬もあるので、そういったものを選んで使っています」(古賀さん)

こう書くと簡単に台湾の残留農薬基準に適合する防除体系を実現できたように見えてしまうが、「実際は大変でした……」と古賀さんは苦笑いした。県の指導センターにもデータがなかったため、自社の農薬リストと台湾の残留農薬基準とを見比べたり、また台湾向けにイチゴを輸出している福岡県のJA粕屋(かすや)いちご部会に教えを請うたりと、地道にノウハウを蓄積していったのだという。

より利益率が高い直接輸出にも挑戦!

うるう農園は現在5社の商社を通した間接取引で輸出をしているが、同時に商社を通さない直接取引での輸出も行っている。古賀さんは「輸出に挑戦すると決めたときから、直接輸出をやりたかった」と語る。ただし、間接輸出で協業している商社への配慮は欠かせない、と古賀さんは強調した。
タイでは商社1社のみを通して間接輸出を行っているので、この商社の販路とバッティングしない売り先に限定して販路を探し、直接輸出を始めた。香港と台湾は5社の商社と間接輸出を行っており、すでに十分な販路があることから直接輸出はせず、商社への供給を増やすことで利益につなげようとしている。

「商社に入っていただくことで、小さな労力で安定的に輸出先を確保できます。商社さんへのリスペクトは忘れず、輸出を拡大していきたいです。一方で農業はビジネスですから、最も大切なのは『売れる』こと。間接輸出では、どうしても販売価格が高くなる傾向にあります。すると、消費者の商品への評価もシビアになってきてしまいます。輸出をビジネスとして成立させ維持するためにも、直接輸出が理想的です」(古賀さん)
この考えに至ったのは、香港に視察に行った際に衝撃を受けたからだという。視察した香港の売り場では、韓国産が日本産よりはるかに広い面積で売られていた。韓国産の価格は日本産の3分の1から2分の1であり、品質も悪くなかったと古賀さんは話す。
「販売価格は大切です。当社では有機肥料を与えた土耕栽培で丁寧に作っていますから、味では絶対に負けません。一度手に取ってもらうことができれば、違いが伝わりリピートにも期待できます。そのためにも直接輸出に力を入れています」

一方で、直接輸出が大変なのは事実、とも古賀さんは説明してくれた。間接輸出に比べて作業負担が圧倒的に重いため、家族経営で直接輸出に挑戦すれば、最盛期には睡眠時間をとれない、という事態に陥る。規模を拡大して生産性を高めないことには、直接輸出に挑戦するのは難しいのではないか、という。
「まずは特徴のあるイチゴを十分な量生産できることが第一歩。そのうえで輸出に割くことができる労力に応じて、直接輸出と間接輸出を使い分ければよいのではないでしょうか。今は歴史的な円安という状況だから輸出で儲かるのだろうと思われるかもしれませんが、当社の試算では1ドル120円でも十分に成立します。先を読みにくい時代ですから、当社では利益を追求するだけでなく、売り先を分散させることが大切と考えており、その売り先の一つが輸出なのです」(古賀さん)

輸出のメリットを近隣のイチゴ農家とともに享受する新たな取り組みを開始

大きなあまおう

大きく育ったうるう農園のあまおう

最後に、輸出のメリットを近隣のイチゴ農家とともに享受すべく始めた、うるう農園の新たな取り組みを紹介したい。それは、周辺農家からのイチゴの買い取りだ。台湾向けにあまおうを輸出できるイチゴ生産者は福岡県に5軒しかない。そのため、うるう農園に現地から供給を増やしてほしいという要望が入ってきた。これを自社だけでこなすには無理があった。

そこで古賀さんが頼ったのは、うるう農園の近隣のイチゴ生産者だ。彼らには、栽培管理を含めて、台湾向けに輸出するノウハウはなく、単独で輸出に挑戦するには労働力も不足している。だが、一定程度の量のあまおうを生産することはできる。そこで力を合わせて産地化しよう、と考えたのだ。
「当社から栽培ノウハウを提供して台湾の残留農薬基準に合致するように生産していただき、選果から先は当社が引き受けて輸出します。そのための別会社としてUluu JAPANを設立しました。もちろんJAより高く買い取りますから、協力してくださるイチゴ生産者さんにもメリットがあります。この生産者団体を『福岡ストロベリーパーク』と名付けました。すでに3軒のイチゴ生産者さんが加盟して、台湾への輸出を始めているんですよ」(古賀さん)
危機感から始まったうるう農園のイチゴ輸出事業は今、大きく育ち、いよいよ輸出産地として結実しようとしている。

【取材協力・画像提供】うるう農園


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