販路は自分で見つけていく。練馬区での販売方法
都内で高品質なトマトを効率的に生産している加藤さん。代表を務めるテルファームでは、トマト養液栽培におけるデータ管理を徹底し、環境改善を繰り返すことで、4年間で約2倍もの反収アップを実現しています。
──作ったトマトは、どんなところで販売していますか。
規模があまり大きくないので、販路は限定的です。テルファームの庭先にある無人販売機、練馬区近郊のスーパー、JAの直売所、仲卸など、あくまでも自分が配達できるエリアに限っています。
──地方では出荷するための部会(=市場と取引をするための生産者の集まり)を通さないと出荷ができないところもありますが、都内だと割と自由に販路を決めることができるのでしょうか。
練馬区を含む4区を管内とする「JA東京あおば」の直売所に出荷するためには、組合員登録と直売所登録が必要です。トマトに関してはJA東京あおばには出荷するための部会がないので、市場出荷の機能もありません。よって販路は自分で開拓する必要があります。

テルファームのハウス内
地元でのふれあいを大切に。小規模な都市農業を維持するための取り組みとは
──ハウス1棟の規模での農業を都市で営むにあたって、どんな戦略を立てているのでしょうか。
トマトやナス、ピーマン、キュウリのように、作物を上に仕立てていく果菜類の施設園芸は少ない農地面積でも営農できるので、都市農業にマッチしています。また都市部では顧客と直接取引できる可能性が高く、交渉次第では市場に出すよりも高単価で販売できます。10アールの少ない農地でも、努力次第で営農できるポテンシャルはあります。
最近だと店舗に並べずに、InstagramなどのSNSで収穫体験の参加者を募ってそこで作物を売る人もいますね。都市農業にはいろいろなやり方があります。栽培品目も野菜から果樹まで多様です。体験農園の仕組みは練馬が発祥の地ですし、現在は観光農園や収穫体験も盛んです。地元や近郊の人々と直接触れ合う農業の在り方は練馬区の文化になっていると感じます。
──13代目である父親の直正(なおまさ)さんはブルーベリーの収穫体験をしていますが、直輝さんはトマトの収穫体験は考えていますか。
現在は収穫体験はやっていませんが、やってみたい気持ちはあります。興味はあるので、最盛期の4~6月に、週末限定でトマトの収穫体験をしてみてもいいですね。前もってきちんと用意して、週末などに、お子さんがトマトを摘みに来てくれたら楽しそうだなと思います。
都内でも農業はできる! 意欲を持って都市農業を実現したい人へのメッセージ
──栽培面積が減っている都市部での農業について、都市農業を積極的に続けることは難しいと思いますか。
都内では多くの意欲的な農家が営農しています。既存の露地栽培や施設園芸だけでなく、体験農園、収穫体験など体験に価値を置く方法も確立されています。観光農園や直売も成立している事例が多々あります。営農するには恵まれた環境だと思いますので、やりたい人は続けるでしょうし、意欲的な農家は規模拡大に向かうと思います。
──「決して広くない耕地でも収益を上げる」「都内で農業に新規参入もできる」ことを実現してきて、振り返ってみての心境を聞かせてください。
練馬区は23区内で最も畑が残っていて、都内でも人口が多い地域です。そこで営農できているのは農業の環境面でも、販売面でも恵まれています。また、実家は先祖代々農家でしたが、若い頃は就農する気はありませんでした。でも実際に就農してみると、農地があることのありがたさがよくわかります。
東京都は農業や農地を守っていくことを重要視しています。営農に関する補助事業も充実しているのも、自分がトマト養液栽培をやろうと思った理由の一つです。
しかし、新規就農希望者が都内で農地を買ったり借りたりすることは、土地価格が高いことや貸し手・売り手が少ないことから現実的に難しいんです。自分は親元での就農だったので、農地をすぐに借りられたことは幸運でした。都内では年々生産緑地が減少しているのは事実ですが、それでも農業を続けていけるのは、諸先輩方の努力があったからこそだと思っています。
自分は地元の先輩のトマト農家で研修を受けて養液栽培をスタートしました。今は生産緑地の貸借も以前よりしやすくなりましたから、自分のやりたいことを実現するためのプランがあって、よきメンター(指導者・助言者)に出会えれば、農業にあまり縁がなくても、都内での新規就農を実現できる可能性はあると思います。
編集後記
代々続く農家の出身というアドバンテージはあるものの、先代を踏襲するのではなく独立しての就農を選び、あくまで自分自身で農への道を切り開いてきた加藤さん。10アールという限られた面積でも、戦略を練って営農することで着実に収益を伸ばしています。加藤さんの営農スタイルに、練馬区だからこそできる都市農業の姿を見いだすことができるでしょう。