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農協が果たすべき役割とは コートジボワールのコメ作りの現場から探る

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コメ不足に苦しむ国がある

食の多様化が進む中で、日本人のコメ消費量は減少傾向にある。農林水産省によると1962年には年間に1人あたり118キロのコメが食べられていたが、2023年には51キロにまで減少。農家や農業関係者にとっては頭の痛くなる事態だ。

コメを食べるのは日本をはじめとしたアジアの国々だという認識を持つ人も多いと思うが、実は西アフリカでは日常的にコメを食べる地域がある。CARD(アフリカ稲作振興のための共同体)の統計によると、西アフリカのセネガルでは1人あたり年間消費量は78キロ、リベリアでは109キロ(いずれも2022年)にもおよび、西アフリカのいくつかの国ではコメが食文化に根付いている。そこで筆者は西アフリカにおけるコメ事情を探るべく、西アフリカの国の一つ、コートジボワールを訪問した。

コートジボワールは西アフリカの中でも海岸沿いに位置する国。全体的に標高が低く、年間を通して気温が高い。筆者が訪問した12月は乾季であり、サハラ砂漠から吹く風が湿度を奪っていたため、蒸し暑さは感じなかった。かつてはフランス植民地だったこともあり、フランス語が公用語であるほか、文化的な影響も強く受けている。伝統的な食文化とフランス料理が融合した食事は、本当においしい。

注目すべきなのが、コメへのこだわりだ。コートジボワールにおけるコメの年間消費量は1人あたり80キロ(2022年)と、日本のそれを大きく上回る。地方の農村に住むコートジボワール人は、「コメは毎日食べる」と話していた。実際に、どこのレストランに行ってもコメが用意されている。街のブーランジェリー(パン屋)ではバゲットがたくさん並んでいるものの、レストランでパンを食べている人はあまり見かけない。魚料理にはフランス料理のような繊細な味付けやシーズニングが施されていながら、コメとも合うようにアレンジされているのだろうか。普段からコメを食べ慣れている筆者にとっては、パリで食べたフランス料理よりもなじみ深く感じた。

コートジボワールの食事。丁寧に味付けされた魚とコメの相性がよかった。同国では独特の香りを持つ「香り米」が一般には好まれるが、他の料理とのペアリングから香りが抑えめなコメが選ばれることも多い

しかし、興味深いことに、コートジボワールはコメの半数近くを輸入に依存している。コートジボワールのコメの自給率は40%ほどに過ぎず、足りない分をベトナムやタイなどのアジア諸国から輸入している形だ。コメは国際貿易量が少なく、生産国と消費国が一致するのが一般的だが、コートジボワールは例外的な位置づけと理解してよいだろう。

コートジボワールは現時点でもある程度のコメの生産量があり、稲作のポテンシャルが高い国であることは確かだ。国土面積は日本の0.9倍と大きくは変わらないが人口密度は低く、水田を拡大する余力もある。コートジボワールが稲作適地であるにもかかわらず、なぜ十分なコメを生産できないのかを考えてみたい。

アビジャンの夜景。空港を含めた都市部のある海岸から遠く離れたところまで明かりが灯っており、経済的に発展している様子がうかがえる

高値で取引されるコメ、買いたたかれる農民

コートジボワールの稲作の半分は、日本と同じように水田で行われる。灌漑(かんがい)は未発達なので自然の降雨に依存するいわゆる天水栽培ではあるが、氾濫原(河川などの氾濫により形成された浸水しやすい平地)や谷あいに田んぼが広がる光景はどこか日本に通じるものがある。もう半分は、畑で作られる陸稲だ。トウモロコシやバナナが育てられている畑の中に、他の作物に交じって陸稲が植わっている。日本でもかつては見られたものだが、コートジボワールでは今でも陸稲が盛んに育てられている。統計の信ぴょう性に欠けるため正確とは言えないが、コートジボワール産のコメの5割が陸稲とされている。農家の女性にインタビューしたところ、「トウモロコシやバナナ、キャッサバなどを植えた後に、空いているところにもみ殻をまいてコメを育てている」と話していた。

奥に見える畑で陸稲が栽培されている

話を聞く限りでは、陸稲の栽培の難度は高くなさそうだ。また、反収を度外視すれば、水田の拡大の難度も決して高くはないだろう。

にもかかわらずコートジボワールのコメ生産量が伸び悩んでいる理由は、コメの買い取り価格の低さにあるようだ。農家が受け取れる金額は1キロあたり61円程度(もみベース、1フラン=0.25円で換算)。1トン生産しても6万円程度となる計算で、現地の農家は「稲作だけをしていても儲からないどころか、生活することも難しい」と嘆く。

コメの買い取り価格が上がらない理由について、専門家は「外国産米との厳しい競争にさらされているからではないか」と説明する。コートジボワールの場合はコメ需要を輸入で満たしてきたため、自国米に代替するためには、低価格かつ高品質なコメを安定供給できる体制を整えなければならない。加えて、自国米の価値を広める、マーケティング的な視点も強く求められる。

そうした背景を受け、「コートジボワールでは小売店舗や流通業者が音頭を取って契約栽培をすることで、コメのブランド化を進めている」と専門家は語る。「農家さんと契約して、精米業者を巻き込みつつ、トレーサビリティーの確保や品質の向上に務めている」と言うように、主に水田で作られる水稲について、バリューチェーン全体を改善することで国産米の競争力を上げていく動きはある。

しかし陸稲については置き去りにされがちだ。上述した通り、陸稲は畑で育てられている作物の一つにすぎず、農家にとって主力の作物ではない。毎年の安定供給を約束できないほか、収穫されたコメを効率的に収集する仕組みもない。ブローカーが一つ一つの農家から個別に収集せざるをえず非効率であるほか、ブローカーの交渉力が強いため買いたたかれてしまうことも多いのだという。

陸稲が栽培されている畑。すでに刈り取られた後だが、刈り残された稲穂も見られた。急な斜面に雑多に植えられているため、収穫作業は骨が折れる

今、コートジボワールのコメの値段は高騰していて、こうした状況は日本と変わらない。「昨年までは5キロで625~750円くらいで買えていたのに、今年は750~875円くらいに値上がりしている」と専門家は話す。しかし陸稲農家が受け取る金額はそれほど変わっておらず、不満を抱えている農家も多い様子。ある女性の農家は、「街で買うときには値段は上がっているのに、買い取り価格は交渉に応じてもらえない。これから陸稲栽培に集中するといったことは考えていない」と語っている。

孤立しがちなコメ栽培 農協だけが頼みの綱

こうした状況の中でも、陸稲を栽培している農家を支える組織がある。それが現地の農協だ。

コートジボワールにおいて陸稲が組合などの団体を介して系統出荷されることはほとんどなく、大半が商系(系統外)出荷だ。しかし、コメを育てている農家が農協から切り離されているわけではない。現に先ほどの女性農家も組合員の一人であり、さまざまな利益を得ているとのこと。コメを育てていられるのも、そうした農協のバックアップがあってのことだという。

筆者が1週間かけて取材したSCINPA(シンパ)という農協の取り組みを紹介したい。SCINPAは2003年、同国最大の都市であるアビジャンにほど近いアグボビルにおいて、300軒の農家からなる農協として誕生した。「ブローカーに買いたたかれる農家を無くし、農産物を適正価格で販売できるようにすることが目的だった」と代表のサワドゴ・モサさんは語る。現在は、カカオやコーヒー、カシューナッツなどの作物を系統出荷するだけでなく、組合員への貸し付けをはじめとしたいわゆる経済事業や、葬儀のサポート、農村部での学校運営などのコミュニティーづくりも行っている。現在の組合員数は3787に上るそうだ。

筆者が取材に訪れた西部の都市・マンでも、SCINPAの職員によるきめ細かな指導が行われていた。マンは、コートジボワール最大の都市であるアビジャンから車で9時間ほどの場所にある。コートジボワールは西アフリカの中では所得水準が比較的高いこともあって幹線道路は整備されているものの、マンの周辺に広がる農村部についてはインフラが整っておらず、四輪駆動の車でなければ入っていくのは難しいような場所だった。マン周辺の農村住民は、「アビジャンから人が訪問してくることはほとんどない」と、情報の断絶を嘆いている。コートジボワールでは農業普及員が実質的には機能していない。特にマン周辺のような遠隔地においては、農業指導やインフラ整備などの公的支援は限定されている様子だった。

コートジボワール西部の都市・マンの街並み。遠くがかすんで見えるのは、サハラ砂漠から飛んでくる砂混じりの風「ハルマッタン」によるもの。ハルマッタンが吹く季節は厳しい乾燥に見舞われる

興味深いことに、こうしたへき地にも農協は複数存在する。コートジボワールの農協は官製ではなく草の根的に発生してきた性格を持ち、課題を抱えた農家が集合してできたものが多い。SCINPAもその一つで、アグボビルという都市に拠点を持ちながら、今ではマンを含む全国各地に組合員を抱える。公的な仕組みが必ずしも期待できない地域においては、こうした農協は頼みの綱なのだ。

組合員の中にはコメを育てている農家も多いが、「SCINPAは今のところはコメを正式に扱っていない。コートジボワールでコメを扱っている農協は聞いたことがない」とモサさんは言う。それでも、種苗や肥料を組織のスケールを生かして一括購入することはあるとのこと。経済事業として農業関連の融資も行っていることについては、「コートジボワールの農家は総じて貧しく、投資に回せる資金力は限られている。そうした中であっても、(コメを含めた作物を)作り続けられるよう支援するのが私たちの役目だ」とモサさんは話している。

SCINPAの代表を務めるサワドゴ・モサ(Sawadogo Moussa)氏

稲を育てるためには高度な技術が求められることはご存知の通りだが、それは陸稲についても同様だ。「地中何センチの深さに植えればいいのか、肥料をやるならどのタイミングで施せばいいのか」を指導することも農協の役割の1つである。特に難しいのが、収穫後のプロセスだ。脱穀や乾燥などについて、機械化があまり進んでいないコートジボワールでは手作業で行うケースも多い。これに対して、籾を乾燥させる際のかき混ぜ方や乾燥日数などについて細かく指導することで、コメの品質向上に努めている。「脱穀機を購入したり、簡易的な精米所を共同運営することも我々の役割」とモサ氏は話した。

収穫されたコメを乾燥している様子

農協は、コメを作る農家の救世主となれるか

水田で育てる水稲の場合には機械化や圃場集約などの効率化との相性は良く、反収も大きい。小売業者や流通業者が契約栽培に乗り出してくるには相応の理由があるのだろう。契約内容によるが、農家にとっては安定的な売り先の確保や相場よりも高い売値などのメリットがあることだろう。

陸稲の場合にはそうした取り組みは見られず、ノーブランドのコモディティ米として取り扱われる。そもそも、コートジボワールにおいて、農家は籾のまま販売する。「品質を向上したとしても、買取価格が上がるわけではない」と女性農家が話すように、買取価格を上げるために農家ができる取り組みはかなり限られている模様だった。

農協はさまざまな側面から農家を支えてきたことは事実だろう。あえて次の課題を上げるとすれば、それは農家にとっての買取価格の向上だろう。販路の拡大やブランディングによる収量増大を担えるのは、実質的には農協しかない。農協がコメの取り扱いを本格化させたり、コミュニティが力を合わせて地域ブランドを発足したりすれば、コートジボワール農家の未来はもっと明るくなるのかもしれないと夢想している。


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