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【若手農家 VS 農水官僚】農家のリアルと国の理想は共鳴するのか?!

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【プロフィール】
■久保牧衣子さん

みどりの食料システム戦略グループ長
1998年、農林水産省入省。農林水産省環境バイオマス政策課課長補佐、ジェトロパリ事務所出向、食料産業局輸出促進課課長補佐、ミラノ万博日本館副館長、大臣官房政策課企画官などを経て、2022年6月より現職。

■清水寅さん

ねぎびとカンパニー株式会社代表取締役
1980年長崎県生まれ。高校卒業後、金融系の会社に就職し、20代でグループ会社7社の社長を歴任。2011年より山形県天童市にてネギ農家を始める。2014年に法人化。1本1万円のネギ「モナリザ」など、贈答用ネギでブランド化。2019年に山形県ベストアグリ賞受賞。著書に『なぜネギ1本が1万円で売れるのか?』(2020年・講談社+α新書)。

■岩本裕昭さん

北海道出身。2015年に実家を継ぎ就農。大玉トマト、長ネギをメインに栽培する。YouTubeチャンネル『いわもとふぁーむTV agriculture studio』を運営し、栽培技術などを余すことなく発信している。

■河口武史さん

進学した宇都宮大学農学部の卒業研究で都市近郊型農業について調査したことで農業に興味を持つ。大学卒業後に地元茨城県八千代町にて親元就農。先人の知恵と新たな農業技術の融合を追求する日々を重ね、就農から6年目に河口農園株式会社を設立、その代表取締役に就任。現在ねぎ10haを周年栽培。先進的な理念を持つ出荷組合zeroの一員として、持続可能な農業の未来を切り拓くべく日々邁進している。

■張替翔志さん

1991年茨城県坂東市生まれ。同市にてネギ・レタスを栽培。高校卒業後、営業職を経て青果市場へ就職する。野菜への理解を深め、競り人 兼主任として勤務。2017年に家業を継承。培った目利きや経験を生かし「妥協のない栽培」を信条とする。

■山崎康浩さん

株式会社BRAVE代表、有限会社ファームヤード専務取締役。長ネギとコメを栽培する。実家の農業を継ぎ、法人化。就農2年目に売上1.5億円を超え、その後も順調に成長する。BRAVEでは1年目に3.5ヘクタールだった畑を2024年現在20ヘクタールに拡大。更にファームヤードでは18ヘクタールの経営面積を誇る。

▼動画を見る▼

みどり戦略の第一印象

――今回は「みどり戦略」をテーマに意見交換をするという趣旨です。最初に、久保様から、みどり戦略についてご説明いただけますか?

久保:日本の農業は、高品質でおいしく世界に評価される農産物を作ってきました。ですが今、温暖化や災害の激甚化などで農業の継続が難しくなりつつあります。一方で足元では、農業も温室効果ガスを排出しています。また、輸入に大きく依存する化学肥料の多用や化学農薬の使用などに伴う環境負荷も問題です。また当たり前に子供たちがSDGsを学校で勉強し、多くの産業が脱炭素や生物多様性の保全に取り組む中で、食料・農林水産業もこれに取り組むことが重要です。農業の持続性と、そして将来世代のため、環境負荷低減と農業の生産力の向上を両立させていこうと、みどりの食料システム戦略を策定しました。

――出荷組合「zero(ゼロ)」(※)の農家の皆様は、みどり戦略の第一印象をお聞かせください。

岩本:率直に言うと「無理なんじゃないか」って。もともと自分自身が化成肥料でしかやったことがなかったので「そんなに有機にできんのかい?」っていう気持ちが強かったですね。ただ私の地域ですと、化成肥料で作り続けて連作障害で困っている農家さんも多い。私自身はそこで清水さんの有機肥料を使う栽培方法に出会って、一昨年からやり始めて、すごく良い方法かなと思っています。

張替:僕はそんたくなしに、素直に「よっしゃっ!」と最初に思いました。その時点で、有機肥料を使っていて、効果も実感していました。「どうしたら、これをもっと発信できるかな」と思っていたので、みどり戦略の話を聞いて、ありがたいなと思いました。

山崎:僕らの地域だからか分かりませんけれど、高齢の農家が多いので情報があまり入ってこない。有機を強く推されても、岩本さんも言ったように「できるわけないじゃん。ならないって」というイメージでしたね、最初は。

河口:数年前に補助金の関係で、みどり戦略のことを耳にしました。調べてみると、結構幅広いじゃないですか。生産のことも含まれていますし、肥料とか農薬とかいろいろあって。言葉が一人歩きしているというか、中身までよく分からなかったというのが正直なところですね。今日このような機会をいただいて、改めて当時よりも理解が深まった状態で、農水省の動画を見ました。見てみると、理に適ったことをしているなと思ってます。長年、日本の農業を支えてきた私の父や祖父の世代の人たちが作り上げてきた固定観念や栽培方法を数年で変えるのは難しいのかなと思う反面、それを戦略の方向に導けるように栽培方法などをシェアしていくのが若者の役目なのかなと思っています。

※ネギを出荷するためにねぎびとカンパニーが設立した組合。有機肥料を使った栽培の生産指導から販売までをトータルサポートしている。

みどり戦略のKPIとメリット

久保:ありがとうございます。みどり戦略を創ったときには各団体などと22回の意見交換をし、その上で2050年までに「化学農薬の使用量(リスク換算)の50%低減」「化学肥料使用量の30%低減」「耕地面積に占める有機農業を25%(100 万 ヘクタール)に拡大」などのKPI(重要業績評価指標)を設定しました。これだけを聞けば、岩本さんがおっしゃったような「無理なんじゃないか」と思われるのも無理はないと思います。一方で張替さんは「よっしゃっ!」と思っていただいたとのことでした。これも、22回の意見交換の中で「そのくらいの取組はもうやっているよ」という方もいらっしゃいました。今、改めて、さまざまな受け止め方があることを実感しました。

清水:僕は「みどり戦略」のことを知らなかったんです。普通に現場で仕事をしていれば、知る由もない。僕らの会社は、国が作ったわけでもないですし、国が立てた目標を達成するメリットがない。達成しようという意識が生まれにくい。国が本当に「これをやる」というなら、伝達のインフラなどから見直すべき。例えば農水省のホームページに上げるだけでは見ません。僕としては「日本を一つの会社として捉える」という考え方をまず広めたい。そこからSNSや、いろいろなものを使って広めてほしい。

久保:本当にそうなんです。われわれ農水省もホームページだけでなく、SNSでもみどり戦略を発信しました。でも、見ませんよね。Instagramでの発信や、テレビコマーシャル、メルマガ、いろんな団体の広報誌への掲載などもしていますが、まだまだ普及に課題があるというのはその通りだと思います。

清水:そうですよね。

久保:その上で「メリットとは」という話ですが、マクロで言えば気候変動を食い止めることや、食料の安定供給につながっていく点がメリットだと思います。一方で、生産者にしてみれば「役人は会議室でそんなことを言うけれど、俺らは今年の作付けを考えて、日々天候や病害虫、雑草と闘っているんだ」と思われるかもしれません。
 ただ、化学農薬に過度に依存しすぎて抵抗性品種が出てきたりしています。また、化学肥料に過度に依存しすぎて連作障害が出てきているなどの課題がある場合、少しずつ有機肥料に変えることで、生産面でもメリットが生まれる。そういう点も含め、きちんと生産者にもメリットを感じてもらえるようにしたいと思います。

有機の農業を広げるということ

清水:みどり戦略が掲げることが良いことだというのはよく分かっているんです。僕らも有機肥料の良さを体感している身ですから。ただ多くの生産者を動かすには、もっと間口を広げないといけないと思います。安価に簡単に始めやすい環境を作れるかどうか。また若い人に発信した方が良い。ぶっちゃけ、上の世代の人の多くは今までやってきた方法を変えるのはおっくう。でも意欲がある人は向こうから来るんですよ。60代以上の人たちが、僕らのやっている様子を見て「俺たちだって、昔は有機なんだよ」って。

久保:なるほど。

清水:「先輩、そうなんすか?!」「当ったり前だよ、たい肥入れて、わら入れて」。成功事例をとにかく広げて、悩んでいる人に伝わることで響くんです。あと、有機肥料を使い出すと、化成肥料には戻れないですね。

久保:生産面で有機の方が良いから、もう化成肥料に戻れないということなんですか。

清水:化成って一番難しい肥料。虫も来る、土は硬くなる。有機は逆。だから僕らが有機肥料を使っているのは「挑戦」のように見えるかもしれませんが、簡単なやり方を選んだだけ。

久保:でも、皆さん、有機は難しいとおっしゃいますよね。

清水:おそらく、消毒をしないからでしょうね。僕らは有機肥料を使いますが、消毒はします。

――そこは、みどり戦略での捉え方とギャップが出そうですよね。

久保:そういうことなんですよね。みどり戦略も、有機農業だけを目指すものではありません。ただ、有機農業をやりたい人は実は多いと思ってるんです。

清水:多いです、多いです。

久保:みどり戦略で有機農業を掲げた背景には、国内外で有機の市場が伸びていたり、新規就農者の中には有機農業をやりたい人が一定数いるということもありました。ただ、そういう方がいざ有機農業に取り組もうとすれば、資材や技術、生産指導の体制などの課題があります。我々としても「みどりの食料システム法」(※)という法律を作ったり、交付金などで後押しをしています。ただ、役人が100万回言っても、有機に踏み切ることは難しいと思います。私個人の考えですが、やはり皆さんのような「生産者仲間の言葉」がおそらく一番、生産者に響くのではないかと常々思っています。一方で生産者だけでなく、調達、生産、加工、流通、消費の食料システムの関係者全体で取り組まないと、みどり戦略は絶対実現できないと思っています。

清水:間違いないですね。

※正式名称は「環境と調和のとれた食料システムの確立のための環境負荷低減事業活動の促進等に関する法律」

若手農家たちが有機農業に踏み込んだ経緯

――皆さん。実際に有機肥料に切り替えたきっかけや苦労などをお聞かせください。

岩本:私の地域ではそれほど大きな栽培面積を持っている農家は居ません。限られた農地なので「回して土地を休ませて」ということができない中で、連作障害が課題でした。そこで化成肥料により、徐々に作れなくなっていく中で「何かをしなければ」という好奇心のようなものがきっかけでした。それで3年前に清水さんと出会い、全て有機肥料に変えました。良いことばかり言うわけではないですが、育苗から収穫まで全てが変わりました。やっぱり最初は分からなかったので、常に質問していました。僕はYouTubeでは清水さんから教わったことを発信しています。視聴データを見ると、65歳以上の人が約40%いるので、興味もあるし、きっかけがあれば変わると思います。

張替:僕も「第一線で活躍されていた清水さんが使っているなら」ということで始めたのがきっかけでした。最初はめちゃめちゃ怖かったですね。なので少し試して効果を感じてから、広げました。僕が清水さんを見て始めたように、僕らを見て「やってみよう」と思ってもらえるような生産を実現したいと思います。

久保:やはり同じ品目の生産者で、ある種、レジェンドの清水さんの存在は大きかったのですね。役所ではよく優良事例集を作ります。単なる冊子に見えるかもしれませんが、現場の知恵と工夫と苦労が詰まっています。そういうものを活用して、我々も各地の取組を紹介していきたいと思っています。

山崎:僕の場合、すごくシンプルで、地域で面積を拡大したときに売り先に悩んだんです。作っても売れなかったら意味がない。そこで清水さんに話したら「作れ。俺が全部売るから」と言ってくれたのがスタートでした。そこで言われたのが、有機肥料を使うということ。使ったことがなかったから「マジ?大丈夫かな」って思いました。でも一部分で検証したら、それほど差がない。そこで全て変えました。有機肥料を使って、畑が良くなり、売り先もある。良いことしかない。あとは僕らの出荷組合の良いところは、同じ肥料を使っているから周りに聞けるんですよ。

清水:使い方をね。

久保:なるほど。

山崎:例えば、張替君と川口君は同じ地域なんで大体、環境も似ている。「ここで仕上げたいな」という時に、「このタイミングで何袋入れてる?」という情報交換ができる。有機肥料を使う不安も、仲間がいるから安心できるというところはあります。

河口:私は、こちらの先輩方とは違って、農業を始めて2年目ぐらいに有機肥料と出会ったので、良くも悪くも化成肥料のことがあまり分かりません。ご縁があって清水さんと出会い、有機肥料を使いました。私みたいにまだ若くて農業を始めたばかりの人にとっては、最初に出会う人がお手本。その意味でも、私たちの組織は情報共有がすごいですし、すごい生産者ばかり。ここにいらっしゃる人も、他の人もすごい技術がある。その人々が選んでいる肥料。そこに全ての理由があるのかなとは思います。

環境負荷低減が見える仕組み「みえるらべる」

――せっかくの機会なので、それぞれ質問などいかがでしょうか。

岩本:今年「みえるらべる 」を取得しました。けれども知らない人が大半。私の地域では3人目。取得による付加価値などが高まると良いなと思っています。

久保:生産者の環境負荷低減の取り組みが分かるように「見える化」する「みえるらべる」というラベルを設けています。生産者の努力を、消費者がラベルを通じて、「みる」+「えらべる」という意味を込めた名称です。皆さんの栽培情報をシートに入力すると、一般的な栽培方法に比べて、温室効果ガスを何パーセント減らせているかを簡単に計算できるという仕組みで、例えば5パーセント以上で星1つ、10パーセント以上で星2つ、20パーセント以上なら星3つ です。記入は難しくないと思います。

岩本:簡単ですね。

久保:ありがとうございます。ぜひ、皆さんにも算定・取得していただき、ラベルを付けていただきたいです。これが増えてくると、消費者へのコミュニケーションがしやすいと考えています。一方で官公庁の調達の際の基準に「みえるらべる」が付いたものを優先的に扱えないかというものも調整中です 。

張替:前半の話にもありましたが、「みえるらべる」の話も今日まで知りませんでした。いろんな手を打っていただいてることを知らなかったのは悔しいですね。

久保:農水省では、政策などを若手職員が発信する「BUZZMAFF(ばずまふ)」というYouTubeチャンネル があり、それまであまり農水省の情報を受け取っていなかった人たちからも、「BUZZMAFF見たよ」と言われます。それでも、なお情報が届かないこともあり、広報周知が不足していることを痛感します。

清水:僕らはInstagramを見たり、マイナビ農業の記事を見たりしますね。でも、広報周知も大事ですが、一番重要なのはメリットだと思います。僕の場合、それぞれの現場に入り込んで「その農家が朝起きてからどんな作業をしているか」までだいたい分かっている。だからこそ、取り組みを広められるんです。入り込んでいくと、答えが見えてきます。

「みどり戦略の仲間を増やしてほしい」

清水:先ほども言ったように、日本を一つの会社として捉えて、その中で目標を立て、それぞれの“支店”や“部”が動くイメージを僕は広めたいですね。そこで「こうする」ということが明確で、きちんとメリットがあることを伝えられれば“支店”は動くだろうと僕は考えています。

久保:企画立案をする立場の我々にとって、生産者は「現場を教えてくれる先生」だと思っていましたが、今の清水さんの話だと、会社の中の“同僚”ということですね。

清水:そうですね。一つの会社の中のね。

久保:良い表現ですね。その中には皆さんのようにネギを作っている“ネギ部”もあれば、コメを作る“コメ部”やいろいろな部がある。有機農業にしても、品目ごとに技術は違いますし、普及の度合いも異なります。また、有機農業の定義付けからすれば、認証の有無などもあります。ただ、みどり戦略が目指すものは、有機JAS認証取得の有無ではなく、それぞれの状況からの環境負荷の低減と生産力の向上の両立です。その点、皆さんは、部のリーダーのような存在だと感じます。皆さんのような存在を、各地の生産者の気持ちに寄り添えるようなかたちで発信できればうれしいですね。皆さんにはぜひ、「こういうやり方だと良いよ。農業はもっと面白い!」と、更に仲間を広げていただきたいですね。その結果、さらに消費者に支持される農業になっていくとことを願ってます。

久保:皆さん5人を前に、もう見た目から完敗してます(笑)


(編集協力:三坂輝プロダクション)


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