「有機JAS認証」も取得。ラーフ農園の活動
姫路市のNPO法人ラーフ・ウッド福祉会は、主に農業を通しての就労継続支援B型や生活介護の事業を行っています。この活動の中心となっているのがラーフ農園です。
──ラーフ農園の特徴や具体的な活動について聞かせてください。
ラーフ農園では、化学農薬や化学肥料に頼らない有機農業を軸とした就労支援を提供しています。有機JAS認証も取得しており、より安心して食べてもらえる食べ物づくりがモットーです。
現在抱えている圃場は約13ヘクタールあり、大半は姫路市豊富(とよとみ)町御蔭(みかげ)になります。手がけている作物は、野菜ではサツマイモやタマネギ、ブロッコリーなどと多岐にわたります。穀物は水稲と黒豆です。ラーフ農園の黒豆は、兵庫県の名産物である「丹波の黒豆」と同じ種を使っており、丹波の黒豆に負けないおいしさが自慢です。
畑仕事以外には、収穫した作物の梱包や加工品の製造・販売をしています。業務の幅を広げることで、誰もが力を発揮できる環境を築いています。自分たちで栽培した有機野菜と国産の豚肉を100%使用した生餃子はイチオシです。

個々の強みを生かせる生産現場
──13ヘクタールもの規模で農業をしながら、6次化にも取り組んでいるのですね。職員と通所者の人数はどのくらいになるのでしょうか。働き方や具体的な作業内容についても教えてください。
私も規模がここまで広がるとは思っていませんでした。現在は職員の人数50人に対し、通所者は80人ほどにまでのぼります。多様な専門性を持つ職員が居てくれるからこそ、ラーフ農園は運営できているといっても過言ではありません。
通所者の皆さんには週休2日で、火曜日から土曜日にかけて仕事をしてもらっています。1日の実働時間は5〜6時間ほどになりますね。当たり前のことですが、ラーフ農園では仕事よりも心身の健康と安全を第一にしています。作業日であっても体調が優れない場合は、休んでもらうことを徹底しています。
実務でいえば、一般的な農家と同じ仕事をしています。種まきから苗の定植、作物の収穫はもちろん、トラクターや田植え機などの運転まで、私たちと遜色なく作業をこなしています。
──皆さんとても頼もしいですね! たとえば、目の見えない人の場合はどういった作業をしているのでしょうか。
タマネギの皮むきや収穫物の袋詰めなどが挙げられますね。タマネギの皮をむくのは、指先や手のひらの感覚があれば十分に行えますよね。袋詰めであれば、目の見えない方が作物を袋に入れて、目の見える方が重さを量るといったように作業を細分化して、それぞれができる仕事を生み出しています。「あなた何もせんでええからゆっくりしときよ」と言われるほどつらいことはありません。

有機農業を始めたきっかけは農園セラピー
──それぞれの人ができることに目を向けながら仕事を生み出しているのですね。有機農業を始めることは、設立当初から考えていたのでしょうか。
実は、農業をすること自体考えていなかったんです。ラーフ農園を設立した当初(2011年1月)は、農園セラピーという、障害者が土と触れ合うことで心身の健康を維持することを目的としていました。当初の通所者は7人で、1アールほどの畑を借りても十分だったのですが、それから1年2年と時間がたつにつれ、通所者の人数も10人20人30人と増えていったのです。それで「こんな狭いとこでしてたらあかん」ということになり、現在の拠点である御蔭に2アールの畑を借りました。

有機農業に取り組むきっかけは、2016年に兵庫県神戸市が主催する有機農業の研修会に参加したことです。そこで初めて有機農業をしている人と出会い、教えてもらいながら作る品目を徐々に増やしていきました。
また、有機農業を選んだ背景には、農薬の使用を極力避けたい思いがあります。もちろん農薬を否定しているわけではありません。ただ、通所者は障害の症状によっては薬を常用しなければならず、副作用に苦しむ姿を目の当たりにする機会も少なくありません。だからラーフ農園では、せめて自分たちで作ったり食べたりする作物には農薬を使わず、誰もが安心して参加できる農業にしたいのです。
福祉と農業に立ちはだかる壁。それでも続けたからこそ得られた地域の信頼
──心理的な負担を和らげることも福祉の面では重要だと感じます。一方で、農業と福祉を両立するのは実際大変ではないでしょうか。
そうですね。私は元農家でもなければ農業に携わっていた経験もなく、まったく無知の状態からラーフ農園で農業を始めました。具体的には、10アールの畑でジャガイモを作った場合にどれだけ収穫できるのかといったことも分からない状態でした。当然かもしれませんが、そのような農園を相手にしてくれる売り先もありません。
また、ラーフ農園の通所者が畑で作業することにも厳しい声がありました。「こんなところを障害者に歩かせるな」「名札をつけろ」などのクレームです。それに対し私は地域の人からの声を受け止め、謝罪するのが精一杯でした。
さらに、福祉と農業を両立するうえで一番の課題が資金繰りです。これは他の農家さんも同じかもしれませんが、肥料や設備、機械へ回すお金を捻出するのが大変ですね。福祉の側面があることから、利益最優先で動くのはなかなかに難しいです。
──辛辣(しんらつ)な声を受けることがあるのですね……。そういった中でも続けることで変わっていったこともありますよね。
ありがたいことに、段々と周りからの理解と信頼を得られるようになってきています。農業をひたむきに続けたことで、まず地域の方の見方が変わりました。「あの子、いつも一生懸命頑張っとるな」「今日ちょっと調子悪いんちゃうか?」と、気にかけてくださるようになったのです。その変化にともない、農家の方から畑を借りてほしいとお願いされることも増えましたね。
生産力がついてきたことで、今では近隣スーパーと直接つながることができています。他にも有機野菜を専門に扱うビオ・マーケットや菓子製造販売のヨコノ食品とも提携しています。
資金面では苦しいながらも、地銀や財団法人に助けられています。特に神戸やまぶき財団への恩は計り知れません。やまぶき財団の助けがなければトラクターや資材などをそろえることもできず、ラーフ農園の土台づくりすらままなりませんでした。
さまざまな困難がありながらも、ラーフ農園は有機農業を通して、誰もが地域社会の一員として活躍できる福祉を実現しているさなかにあります。
目指すは農福“一体”。有機農業と障害者福祉は両輪
──地域から頼られていることがうかがえます。ラーフ農園は農福連携という取り組みを体現していると思うのですが、その点についてはどう考えているでしょうか。
私は、農業も福祉もどちらも欠かすことのできない両輪の関係であると考えています。一般的にうちのような就労支援施設は、農福連携という枠組みで認識されるかと思います。しかし、農業と福祉はどちらが欠けてもダメで、一緒に回ることで前に進むことができるのです。たとえば、農業を専従にしてしまうと福祉の面がおろそかになり、だからといって福祉だけに偏ると地域とつながる機会を奪ってしまいます。なので、福祉と農業は“一体型”であってこそ成立すると思うのです。そして、ラーフ農園の活動を通して、障害の種類を問わず誰もが社会の役に立てることを自覚し、共に支え合う共生社会が広がることを願っています。
ラーフ農園