農業生産が不利な地を利用してオープンガーデンとカフェを展開
北海道でもトップクラスのアスパラガス栽培面積を誇る押谷さん。土壌分析を軸として土作りにこだわりながら生産していることは前記事で触れた通りですが、もう一つの顔がオープンガーデンとカフェを組み合わせるという一風変わった観光農園です。

押谷ファームのオープンガーデン
観光農園を始めた理由の一つが、新規就農時に手に入れた土地が農業生産に向いていない場所だったことでした。
「農地の隣に防風林があり日当たりが悪い土地だったことから、地元農家から不人気な場所でした。それならば、一番日の当たらない所は庭として自身が楽しむ場所に。それ以外で農業経営をすれば良いだけと思い新規就農をする場所に選びました」

オープンガーデン隣にある防風林
もともとは趣味として庭作りをしようとしていた押谷さん。自由に遊ぶためのイングリッシュガーデンは移住してきた理由であり夢でもあったことから、庭作りにどんどんのめり込んでいきました。
その結果、ライフスタイルの1つであったイングリッシュガーデンは趣味の域を超えるクオリティーとなり、多くの人が訪れるオープンガーデンへとなっていったと言います。
オープンガーデンを見に来る人はもちろん、当時はアスパラガスを直売していたこともあり、せっかく来てくれたならゆっくりしていって貰えるようにと、お茶を振る舞うカフェの営業も始めました。

押谷ファームcafe
趣味の延長線上で始まった観光農園が人を呼ぶ
趣味の一環で始まった押谷ファームのオープンガーデンには、押谷さんの奥さんのつながりで日本のランドスケープアーキテクトの第一人者である山本紀久さんが設計から関わってくれていると言います。
つながりが人を呼ぶオープンガーデン
「庭作りの方向性を考えている時に出会ったのが先生。こんな庭を作りたいんですよねと話をしていると、先生も今後世の中に何が残せるかだったり、北海道の植物で、仕事ではなく自由に表現できるのも面白いと言われていました」(押谷さん)
意気投合をした二人は、先生が一から設計をし、それを実現するために押谷さんが木を植え付けたりをすることに。現在、オープンガーデンにあるテーブルや椅子はもちろん、床に敷き詰められている5000を超えるレンガや花々、木々は全て押谷さん夫婦と押谷ファームの庭作りに共感して集まってくれた仲間と一緒に手づくりで組み立てました。

押谷さんが自分で敷き詰めた
そして、せっかくなら、自分達だけが見られるものではなく誰でも自由に見られるようにしようとオープンガーデンとして無料公開をする運びとなったと言います。先生の設計と押谷さんの努力のかいもあり、本の表紙を飾るほどのクオリティーとなったオープンガーデンには、花々や木々を好きな人が集まってくるまでになりました。
オープンガーデンの利用者の中には、カフェを利用したり、アスパラガスを注文して帰りたいという声も上がり、無料開放したことは結果としてガーデンとアスパラガス双方の認知拡大にもつながったと言います。

手づくりのピザ窯
「もったいない」がカフェの人気商品に
元々、オープンガーデンやアスパラガスの注文に訪れる人の為にお茶を出す口実で始まったカフェ。本業である農業で廃棄されていたハネ品がもったいないということから、カフェで何か利用できないかと検討をしていました。
そんな中行きついたのが、凍らせた農産物をそのまま削ることで氷を一切使用しないかき氷。長い期間保存が可能となるのはもちろん、農園で取れる物や売り先の無かった物を使用しているので、他と比べ仕入れ費用が掛からず、消費者にとっても手に取りやすい価格で提供することができると言います。

かき氷のメニュー表(大カップ700円、小カップ500円)
トウモロコシやカボチャ、ブルーベリー、プルーン、イチゴと多くの種類があり、シロップを使っていないので味がくどくなくおいしいと評判。メディアでも取り上げられるほどの人気商品で、これらを振る舞う店舗の外観がお洒落であることも注目を集める理由の1つです。

かぼちゃを削って作ったかき氷
農業は楽しみながら稼ぐことのできる仕事
全国でもトップクラスの生産量を誇る押谷ファームは、観光農園をしなくても経営が成り立っています。にも関わらず、趣味の延長線上として手間の掛かるオープンガーデンやカフェの経営までを行う理由は何なのでしょうか。
「お金だけを見たら他の仕事を選びますし、もっと安定した仕事もあります。そういう仕事に就けばきっと何不自由ない生活が出来るでしょう。ただ、私にとって農業は、野菜を生産するだけではありません。農地は釣り池や庭、ピザ窯を面白そうと感じてくれる仲間が集まってくれる場所。だからこそ、趣味ややりたいことの延長線上に観光農園があるだけです。むしろ、野菜だけを作るのだったらとっくに辞めてしまっているかもしれませんね(笑)」

取材時の押谷さん
農業という「生き方」を仕事にしているという押谷さん。農業の話をする姿は凄く楽しそうで、次はさまざまなフルーツが取れたり食べられたりする果樹園を作っている最中だとか。農業の魅力が多く詰まっているなと感じる取材でした。
取材協力
押谷ファーム
押谷ファームcafe
押谷ファームcafe