Quantcast
Channel: 関西エリア –マイナビ農業-就農、農業ニュースなどが集まる農業情報総合サイト
Viewing all articles
Browse latest Browse all 654

2030年までに使用量を倍増 農水省が「ふん」資源に注目するワケ

$
0
0

リン酸の製造が自然破壊になるとの認識が世界で拡大

2022年ごろから始まった肥料原料価格の高騰。中でも、リン安は他の肥料原料に比べて原料価格の下がり方が緩やかだ。
原料となるリン鉱石は、特定の地域に偏在する。中国とモロッコ、エジプトの三カ国で、世界の経済的に採掘できる埋蔵量の約8割を占める。2024年の産出量をみると、中国が46%、モロッコが13%、アメリカが8%と続く。

いまだに安定しないリン安の価格は、最大の産出国である中国の政策変更が情勢が起因している。リンは、製造する工程で、大量の電気や化石燃料を消費する。そのため、国家の方針として環境保護にかじを切った中国が、製造過程で大量の二酸化炭素を放出する肥料工場の取り締まりに乗り出したという話もある。

国の基準を満たしていない工場の操業を止めたため、製造量が減った。国際的な原油価格の値上がりが追い打ちを掛け、製造と輸送のコストが上がり、価格が跳ね上がってしまった。

農家が肥料価格の高騰に苦しむ事態になったため、中国は行き過ぎた環境政策を軌道修正しつつ、国内で必要な量の安定確保と備蓄に熱心になる。輸出を締め付けるため、リン酸肥料を含む化学肥料関連の29品目について、2021年10月、輸出前の検査を始めた。

あくまで検査の強化という建前ながら、輸出量を大幅に絞っており、実質的な輸出規制になった。調達の現場は混乱に陥り、商社やJA全農は慌てて輸入先を切り替えてきた。
環境への対応を強化しリン酸の製造を減らすのは、中国に限った話ではない。農水省農産安全管理課課長補佐の石原孝司(いしはら・こうじ)さんは「リン鉱石自体が限りのある貴重な資源です。中国に限らず、リン酸を製造することが自然破壊になるという認識が世界的に広まってきています」と話す。

リン鉱石にカドミウムといった重金属や放射性物質が含まれることが多いのも問題視されている。

石原孝司さん

ふんが注目される理由に安定感

リン酸肥料の原料がこれまで通り海外から安定的に供給され続けるかは不透明だ。そんな中、救いの主として期待されているのが、国内の未利用の肥料資源、特に家畜やヒトの「ふん」だ。理由はその安定感にある。

「化学肥料の原料価格は今後、過去に高騰した後のように元に戻って安定するかどうか……正直、未知数なところがあります。一方、継続して農業を営んでいく上で、海外の市況に左右されない国内の資源を有効に活用していく。このことを現在、強力に推進しています」。島さんは、こう強調する。

国内の肥料資源を活用して肥料製造する場合、世界市場や為替変動のリスクは、外国原産の肥料原料を使用して製造するのに比べて少ない。肥料資源として発生する量も、比較的安定している。人や家畜が排泄する量は、そうそう変わらないからだ。
「下水汚泥の場合、人口減少はしているものの、毎年ほぼ一定の量を確保できます。化学肥料の原料のほとんどを輸入に依存している中で、こういう安定的に調達できる肥料原料を、しっかり確保していきたい」(島さん)

島宏彰さん

活用で国内資源の倍増に期待

国は2023年12月、2030年までに家畜排せつ物由来の堆肥、下水汚泥資源の肥料としての使用量を倍増し、リンベースの肥料の使用量に占める国内資源の割合を40%まで高めるとの目標を示した。

その達成のため、肥料としての利用の倍増を狙う資源は二つ。
「今後の肥料利用として伸び幅のまだ大きい資源は下水汚泥と家畜ふん。この二つの活用を狙っています」(島さん)

肥料の原料になる国内資源はさまざまある。原料としての地位を確立して久しいのが、油粕(あぶらかす)と魚粕(ぎょかす)だ。油粕は、ダイズやナタネなどから食用油を搾った後の粕をいう。魚粕と共に、かなりの割合が既に肥料として使われている。

かたや下水処理の過程で生じる下水汚泥は、産業廃棄物として最多の発生量がありながらも、建設資材としての利用も多く、一部は埋め立てなども行っていることから、一層の有効活用が期待できる。

下水汚泥を肥料化しているものの多くは、コンポスト(堆肥)だ。下水汚泥の水分を絞った上で1~2カ月程度掛けて発酵させ、コンポストにする。
一方で、「コンポストの利用だけでなく、大規模な自治体では、下水汚泥を焼却処分しています。その下水汚泥の燃焼灰だと、どこまで肥料にできるか、国土交通省と連携して、検討を進めています。もちろんそれらについては安全性にも十分配慮する必要があります」と島さんは説明する。
それが燃焼灰も肥料にできるという知見が積み上がってきて、その肥料化が有力な選択肢として検討されるようになった。
「下水汚泥を燃焼させると、含まれる窒素分は少なくなりますが、リンは残ります。しかもリンが高濃度に含まれるようになるので、肥料メーカーにも肥料の原料に使えないかと注目されています」(石原さん)

ふんに由来する未利用資源の伸び代は群を抜いている。農業の安定には、やはりその存在が欠かせない。


Viewing all articles
Browse latest Browse all 654

Trending Articles